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終身雇用や年功序列などを表面的に理解すれば、中高年者を集中的に削減するのは矛盾したやり方と思えるかもしれなだから、雇用中断に対する補償料として加算金を出す意味がある。
早期退職優遇制度は、定年制度の前倒しなのである。
どちらもまだ働く能力があるのに辞めてもらう点では同じである。 しかし前述の通り、終身雇用とはいうものの、企業はこれまでも定年制度によって高齢者の雇用を中断してきた。
年功賃金も若年者を大量に採用していた時代には、平均賃金を低く抑える役割を果たした。 長幼の序という道徳的な観念で年功賃金を採用したわけではない。
上辺の飾りをはぎ取っていくと、企業は必ずしも高齢者を大切にしてきたとは言えない。
永年勤続表彰などで中高年者を顕彰したりOB会の援助をしたりしているのだから、企業が高齢者への礼儀を欠いていたとは言わない。
しかし緊急避難的に総人件費を減らすために、人減らしを迫られる事態に追い込まれると、本音が俄然、前面に出てくる。 終身雇用は、定年までという注釈も外れて、半身雇用になる。
意識していたかどうかは別と語ってくれた。 Sさん、52歳。

日本Iで副主管の資格だったが、例のセカンドキャリア支援プログラムに応じて5月十日に退職した。 名刺には「F株式会社システムコンサルティング部長」とある。
実は、これは10月からで、Iを退職して再就職した最初の会社を6ヶ月足らずで辞めて、今のところは会社なのである。 東京・高輪台の明るいオフィスで、Sさんは、I退職の経緯から現在に至るまで屈託なく「私は悔やまない性格なんです。すべて自分で決めてやってきましたからね。結果がたとえ悪くても自分で決めたことですから。それに決めるのも早いんです」。
り口はビジネスライクで、からつとしている。 いかにもIで長い間、コンピューターの仕して、その方が企業の本音に近いのではなかろうか。
終身雇用という表記は正確ではないと前に言った。 では景気が回復すれば、終身雇用神話は復活するだろうか。
成長率の低下が予想されるうえに、人口構成上も高齢者がますます増える今後、それは不可能である。 半身雇用の実態がより、はっきりして来るに違いない。
日本Iは皮肉にも、その面でもお手本になりそうだ。 しかしSCPに対して、待ってましたとばかりに手を挙げて、勇んで第2の人生に飛び出したというわけではない。
その時々に、選択肢を自分なりに検討して決めてきたところは、平均的なサラリーマンという感じである。 92年11月、出向先のソフト会社でSCPの募集用紙を受け取った。

経済的な事情で、応募しないことを即座に決めた。 「私は結婚が遅かったので、中学2年と一年の子供がいまして、当時は下の子が私立中学受験をひかえていたんです。私立に入れると学費がかかります。住宅ローンの返済を考えますと、辞められませんでした」と言う。
93年1月、出向先から本社に復帰した。 「50歳以上は辞めて欲しいということでしたから、もう受け手がなくて、取りあえず仮配属という形で閑職に戻りました。
そこの上長が昔一緒に仕事をした人で、社内で仕事を探してくれまして、正式配属はようやく3月でした」。 営業部門の人事担当者が自らSCPに応じて退職したので、その後がまに入ったのである。
「戻って改めて募集用紙をもらいましたが、当然ノーでした。 人事関係に異動が決まった時は、これで数年は安泰だなと思いましたね」と語る。
運がいい人なのだろう。

ところが人事に移った3月の2十日には、退職を決断している。
「2月末に、完全に独立する者には、半年分の給料をさらに加算するという条件が追加されました。 当時50歳だった私は2年分の給料が通常の退職金に加算されることになり、これで住宅ローンの残金を一括返済できることになったんです。
それで急に「通常の退職金は全額、年金にしました。これで倹約すれば、月々の生活は何とかできる。しかし子供の教育費は足りないので、再就職したわけです」。 この時、同僚から「よく全額を年金にしたね」と驚かれたそうだ。

「会社が傾いてから辞めるわけですから、みんな、年金にするのを心配していたんですよ。 途中でもらえなくなるのではないかと」。
こう言ってSさんは苦笑した。 優良会社Iへの従業員の信頼感は、雇用調整を始めた途端、一瞬にして崩れてしまったようだ。
Sさんは人材斡旋会社の紹介で、総合コンピューターサービス会社のT社に再就職を決めた。 経営ビジョンが優れていたことと、Iから転職している人が何人かいたことも決め手になった。
SCPで転職する人も5、6人いたそうだ。 Sさんは5月の連休明けに、販売推進部門の技辞めようと思ったわけです」。
本来、システムエンジニア(SE)であるSさんにとって、人事関係の仕事はあくまで生活のためのものであって、もともと執着はなかったのだろう。 たとえ残っても50歳以上の従業員には仕事はないという話が社内を飛び交っていた。
対象者のほとんどはIにはもはや居場所はないと感じて、SCPの条件にしたがって自分の退職金を計算して進退を考えたらしい。 そして迷う人が多い中で、Sさんは決断した。
昭和39年入社のSさんは、SE、教育のインストラクター、システムが適正に組まれているかどうかをチェックする検定の仕事などを経て、販売支援のSEを92年7月に関連会社に出向するまでやっていた。 「製品知識はいろいろ幅広く持っていました。
営業マンがある程度までお膳立てをしたところで、私が出て技術的な説明をして契約をまとめるんです」。 しかし新天地で、Sさんは評価されなかった。
T社では、販売成績が上がらないと直ちにSさんの管理職としての適性に問題が転嫁された。 8月に事業推進部門に代わり企画業務に就いたが、業績が停滞したため、全員セールス体制になり、飛び込み営業を命じられる。
素晴らしい経営ビジョンと現実の経営とのギャップに疑問を感じざるを得なかった。 この後、さらに開発関係など部門を2つ代わったが、会社からそれとなく退職勧奨の意向を伝えられるようになり、Sさんは退職の決意を固め、再び就職活動を始めた。
毎朝8時に管理職のミーティングを開くのはいいが、昨日何台売ったのか、今日は何台売るつもりかといったことばかりやる。 晩には8時、9時に抜き打ちでミーティングをやり、いないと厳しく叱責する。

日銭商売のような感覚はSさんの肌に全く合わなかった。 それに自分から合わせるつもりもなかった。
今回のIの早期退職優遇制度の運用実態を追うと、それが退職勧奨に限りなく近かったことがわかる。 まず「千2百人」という目標があったこと。
応募状況をにらんで途中で完全独立の道を選ぶ人に6ヶ月分の給料を上積みすることにしたこと。 さらに部門によって差があるが、50歳以で、9月下旬には転職が決まった。
IからT社に転職した人のうち、Sさんによれば自分も含めてすでに4人が辞めたという。 これが転職の一つの現実なのだろう。
収入の面では、T社の給与はI時代の約7割、今の会社はさらにT社の約8割に減った。 結局、収入はIにいた時の5割から6割に落ちた。
「私は人材斡旋会社にT社と同水準の給与を希望しましたが、クールに計算したんです」とSさんは落ち着いたものである。


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